昨日9日、日本銀行の32代総裁に植田和男氏が就任しました。日銀新総裁の金融政策は日本経済全体に大きな影響を与えますし、当然、不動産市場にも影響を与えることになります。では、植田新総裁とは、どういう人物なのか見てみたいと思います。
植田新総裁はマサチューセッツ工科大学経済学部で博士号を取った後、ブリティッシュコロンビア大学、大阪大学、東京大学、共立女子大学等で教鞭を取りました。また、1998年から2005年までの7年間、日銀政策委員会審議委員を務めています。
従来、日銀総裁は財務省出身者と日銀出身者が交互に務めており、今回退任した黒田氏は財務省出身、その前任であった白川氏日銀出身でした。このパターンに従えば、今回は日銀出身者が総裁となる順番でしたが、日銀でも財務省でもなく、戦後初めて経済学者出身の総裁が就任しました。植田新総裁には黒田前総裁が主導した異次元緩和を出口に導くことが期待されているものの、当面は金融緩和を継続し就任早々の大きな政策転換は行われないであろうというのが大方の見方であります。
先日、植田新総裁の考え方を知ろうと植田新総裁が2005年に執筆した「ゼロ金利との闘い」を読んでみて、興味深い一文を見つけました。本が執筆された当時は、植田新総裁が日銀の審議委員を退任した直後であり、日銀は金融緩和政策の出口を模索していた時期でした(*1)。植田新総裁は「ゼロ金利との闘い」の中で、「中央銀行の政策担当者は直接国民の投票によって選ばれているわけではない。国民に大きな負担が発生するかもしれないような政策は、投票によって選ばれている政治家が決めるもの」と述べています。黒田前総裁下の10年で日本が抱える債務は膨れ上がり、金融引締めへの政策転換を進めた場合には国民に大きな負担が発生する可能性が高まっている状況です。こうして考えますと、植田新総裁はやはり当面、金融緩和路線を継続するものと思われます。
*1 実際、当時の福井総裁が2006年3月に金融緩和の解除に踏み切りました。